ずっと君と・・・ 5
「あっ、気がついた。」
のぞき込んだ千尋の顔が視界に入った。
傷には包帯が丁寧に巻かれていた。どうやら千尋が手当てをしてくれたらしい。
「…そなた、ずっと私を看病してくれていたのか?」
「うん。それにあなたとは初めて会った気がしなくて、
なんとなくなつかしさを感じたから助けてあげようかなって…。」
ハクはとっさに千尋の手を握った。もう少しだ、もう少しで千尋は自分のことを思い出してくれる。
「あ、あの…何を…?」
「お願いだから少しでも思い出してくれないか?私のことを…そなたと私の記憶を。」
まるでサブリミナルの映像のように千尋の脳裏にハクとの出会いや
湯屋で過ごした数日間の記憶が映し出されていく。
「ハ…ク…?」
記憶の中に埋もれていた大切な人の名前が再び産声を上げた。
「ハク?本当にハクなの!?」
「そうだよ、千尋。ずっと待たせてしまってごめんね。」
「ううん、ハクのせいじゃないよ。わたしがあの時のことを忘れかけてたから…。」
今の二人にはもはや未来のことなど考えようもなかった。
何より欲しいのは"今"という時間。
完全な人間になれなくてもいい。ただこうして愛しい少女と共に時を重ねられさえすれば、
それでいい。そうして互いに再会を喜び合いながら、二人の時間は過ぎていった。
END